劉赫は、(ねぎ)が絡みついた鳥肉を(はし)で摘まみ上げ、ゆっくりと口の中に入れた。

「おー」

 謎の感嘆の声が上がる。それからは、一心不乱に食べ続ける。

(良かった、気に入ったみたい)

 とても美味しそうに食べる劉赫の横顔を見ながら、雪蓉は充足感に包まれる。

 そしてその後、チクリと胸の奥が痛んだ。

雪蓉がいなくなれば、劉赫はまた食事に楽しみを見いだせなくなる。

彼の幸せを奪ってしまうような罪悪感を覚えた。

(いやいや、だからって、一生を皇帝に仕えようなんて思えないし! 劉赫には私以外が作った料理でも味を感じられるようになってもらって、さっさと帰るのよ!)

 ぎゅっと拳を握り、決意を深める。

 味を感じなくなるというのは、精神的なものが関係しているのだろうか。まずは、情報収集だ。

「いつから味を感じられなくなったの?」

 雪蓉の問いに、一瞬劉赫の箸の動きが止まる。

しかし、すぐに何でもないような顔をして食事を進める。

「……知っていたのか」

「さっき聞いたのよ。で、いつから?」

「十四年ほど前かな」

「そんなに⁉」

 十四年前といえば、劉赫が皇位継承した年だ。

劉赫は当時十歳。若すぎる皇帝継承だった。

 相当精神的に負荷がかかっていたことは、庶民の雪蓉でも容易に想像できる。

 舜殷国は、神龍が皇帝を決める。

正統な血筋と、知力体力共に優れた者が神龍に選ばれ、神龍が持つ力をその身に宿(やど)すことができるという。

 どんなに若く未熟であっても、神龍が選んだ者に異議を唱えることはできないのだ。