「そうよ。私以外が作った料理は食べないって言うから。内侍監に頼まれたのよ」

「内侍監に頼まれたら、言うこと聞くのか?」

「そういうわけじゃなくて。私のせいで皇帝が死なれたら困るのよ」

「なるほど。俺の命懸けの賭けは勝ったということだな」

 満足気に劉赫は微笑む。

普段と変わらないように見えるが、少し顔色が悪いことに雪蓉は気が付いた。

でも、いつ倒れてもおかしくないほど衰弱はしていない。

足腰もしっかりしているし、元気そうだ。

(あの内侍監、私に嘘をついたわね)

 とぼけたふりをして、実際には悪賢い人物だったようだ。

 (たぬき)め……と心の中で悪態をつく。

しかし、これは考えようによっては好機なのである。

気を取りなして劉赫と向き合う。

「あのね、そんなことで命懸けないでくれる?」

「同じだろう? 雪蓉も俺が手を出したら舌噛んで死ぬと言った」

「それとこれとでは重みが違うでしょう」

「一緒だ。少なくとも、俺にとっては」

 突然、劉赫が真剣な面持ちになったので、雪蓉は言葉を(つぐ)んだ。

 劉赫にとっては、命を懸けるほど大事なことだったらしい。共感することはできないけれど。

「まあいいわ。とりあえず、冷めないうちに食べてよ」

 雪蓉に椅子に座るよう勧められ、円卓子に置かれた料理を見下ろす。

食欲をそそる生姜と鳥肉の匂いが漂ってきた。

 朱塗りの豪奢なお盆の上に、丼ぶりと小鉢が置かれている。

美味しそうな匂いの正体は、鶏肉と(なつめ)(あつもの)のようだ。

脂の乗った濃厚な汁に、ほろほろになるまで柔らかく煮込んだ大きな鶏肉が存在感を放っている。

小鉢は冷菜の盛り合わせだった。