「あのっ! 明豪さんは入られないのですか⁉」

「当然だ。しかし、逃げられぬよう、外で見張っている」

「窓とかから逃げちゃってもいいんですか⁉ 側で見張っていた方が安全だと思います!」

「劉赫様がいるから問題ない」

「問題大ありですから!」

 その劉赫が一番危険なんです! と心の中で叫ぶも、一向に扉を開けてくれる気配はない。

「おい、お前、そこで何をしている」

 薄い(しゃ)のとばりと(ぎょく)(つら)ねた(すだれ)天蓋(てんがい)から下がっている大きく立派な寝台から、おもむろに劉赫が出てきた。

深紫色の光沢のある滑らかな絹の深衣を着ている。

(まずい、出てきちゃった! ……って、ここ劉赫の臥室だから、いるのは当然なんだけど)

「……雪蓉、か?」

 諦めに似たため息を吐いて、大きく息を吸い、振り返る。

「ごきげんよう」

 とりあえず、挨拶しておく。

皇帝に対する挨拶が、これでいいのかは別にして。

「何をしている」

「何って、見て分かる通り、食事を持ってきたのよ」

 大きな黒檀の円卓子の上に、雪蓉の渾身の手料理を乗せる。

「お前が作ったのか?」

 劉赫は意外そうな顔をして、料理に近寄る。

 お前と呼んだり、雪蓉と呼び捨てにしたり、劉赫は雪蓉の呼び方を統一する気はないらしい。

かくいう雪蓉も、あんたといったり劉赫と呼んだり、皇帝として(うやま)う気は微塵もない。