特別に許可を得て、雪蓉は皇帝の臥室(しんしつ)がある太清宮(たいしんぐう)に料理を直々に持っていく。

雪蓉が自ら作ったといって差し出さなければ、口にしない恐れがあるからだ。

 太清宮は、地図上では内廷に位置している。

皇帝からのお呼びがあれば、妃は龍床(りゅうしょう)(はべ)ることができる。

だがもちろん、今まで劉赫が後宮の妃を臥室に入れたことはない。

 金色の瓦屋根に、朱色の柱が威容(いよう)を誇る太清宮の中に入り、磨き上げられ(ぜい)を凝らした長廊を歩き、皇帝の龍床がある臥室に向かう。

「臥室ではなくて、食事処とかに来てもらうことはできないんでしょうか?」

 と案内役から雪蓉の護衛のようになった明豪に聞くと、

「臥室とはいっても、食事に困るほどの狭さではない」

 と一蹴(いっしゅう)された。

 狭さを気にしているんじゃないんだけどなと思うが、明豪が怖くてこれ以上踏み込めない。

(そりゃ、皇帝の臥室ですもの、何でも揃っているでしょうし、広いでしょうよ。

でもあの変態の臥室に行くと思うと、色々と身の危険が……)

 心の中でブツブツと呟きながら、明豪をチラリと横目で見る。

(きっと明豪も部屋の中に来てくれるわよね。私、逃げ出したら困るもんね。

いくらなんでも、明豪がいるのに手は出してこないでしょう)

 明豪が臥室の扉を開け、中に入るよう雪蓉を促す。

 意を決して中に入ると、重厚でとても豪華な造りだった。

しかし、目に鮮やかな華美さはなく、落ち着いた色合いで統一されている。

 心地のいい毛絨毯に、大きな黒檀(こくたん)の丸卓子が中央に置かれている。

背板のある花鳥が象嵌(ぞうがん)された長椅子も豪奢で、置かれている調度品全て品が良く高級であることが一目で分かる。

 呆気(あっけ)に取られて見ていると、臥室の扉が閉められた。

雪蓉一人、臥室に取り残されたので、慌てて扉に向かって声を投げる。