ギリ、と歯を食いしばった瞬間。

天井から突然、大きな何かが降ってきた。

 ハッとしたのも束の間、劉赫の頭を目がけて黒いこん棒のようなものが振り下ろされた。

 劉赫は咄嗟(とっさ)に腰の太刀(たち)(さや)ごとかざし、黒い棒を受け止める。

奇襲(きしゅう)に失敗した雪蓉は、ひらりと体を回転させ、床に着地した。

「訪問早々、俺に襲いかかるとは。このことが他に知られたら命はないぞ」

「あんたの妃になるくらいなら、死んだ方がマシよ」

 雪蓉は劉赫を鋭く睨み付けて言った。

 真正面から挑んでも勝てないと諦めたのか、雪蓉はくるりと背を向けて室の奥へと歩いていった。

そして、脚が一本なくなっている卓子(たくし)に、さっきの黒いこん棒のようなものをつけ始める。

(あれは卓子の脚だったのか)

 雪蓉は劉赫を無視して、懸命に卓子を直そうと頑張っている。

「新しいものに変えてもらえばいいだろう」

「何言ってるのよ! もったいないじゃない! まだ直せば使えるわ」

 自分で壊しておきながら直すのか。

なかなか(つつ)ましい性格だな、と劉赫は感心する。

ただの貧乏性だと教えてあげたい。

「良かった、直ったわ」

 満足気に微笑む雪蓉の横顔を見て、劉赫の頬も緩む。

 さっきあなた、この人に殴りかけられてましたよと突っ込みたい。

恋とは恐ろしいものである。

 雪蓉はクルリと振り返って劉赫を睨んだ。

凄い形相で睨まれているのに、目が合って劉赫はどこか嬉しそうだ。

大丈夫だろうか、この皇帝。