皇太后が後宮にいるのを好ましく思わない者もいると聞いたことがある。

先帝が崩御した後に後宮の妃嬪を一新するのは、残しておくのは縁起が悪いと言われているからである。

 しかし、生母が後宮に居続けた例は過去にもあり、特に気にする必要はないと雪蓉は思っている。

「いいえ。喜ばしいことに寵妃もできたことですし、母は下がります。それに、今まで残っていたのは、麗影様がいたからなのです」

「それは、どういうことだ?」

 華延はニコリと笑って、理由は話さなかった。

この場では、相応しくないことと判断したのだろう。

 言わなくても不思議と劉赫と雪蓉は意図が読み取れた。

 華延は、十四年前の皇位継承儀式の時、神龍に宝玉を与えた人物が誰なのか分かっていたのかもしれない。

 子ができず、寵愛を華延に奪われ、心を壊した麗影。

皇子を殺す理由は彼女には余りある。

しかし、証拠がない以上、問いただすことさえできない。

 華延はずっと、後宮に残り続けながら麗影を見張っていたのだ。

母として、劉赫を守るために。

「……一つ、聞きたいことがある」

 劉赫は華延が後宮に残っていた理由について問うことをやめた代わりに、別の質問を投げかけた。

「なんでしょう?」

 劉赫は、一拍間を置いて重たい口を開いた。

「今でも、余の顔が神龍に見えるか?」

 雪蓉と華延は、ハッとして劉赫を見つめた。

 華延は、何かを堪えるように下を向いた。

握りしめた拳が、密かに震えていた。

 そして、意を決したように顔を上げた華延の表情は、明るく輝いていた。

目に涙を溜めながら、笑顔を浮かべている。

「いいえ。麗しく凛々しい御顔が、よく見えております」