涙が込み上げる。

好きだと告げて死んでいく男の顔を見ながら、それってずるいんじゃないの? と非難の気持ちが湧き上がる。

私の気持ちはどうなるのよ。

ねえ、劉赫……。

「ひっく……うっうっ……」

 嗚咽を零しながら、床に涙の染みを浮かべる。

 後悔と絶望に打ちひしがれている雪蓉の横で、妙に気楽な声がした。

「なんじゃ、もう必要なさそうではないか。せっかく持ってきたのに」

 宝玉を手にした仙が、眠っている饕餮を見てがっかりした様子で言った。

「仙婆……、劉赫が、劉赫が……」

 顔を上げ、小さな子供のように泣きながら言う。

雪蓉にとって、仙は育ての祖母のような存在だ。

「劉赫がどうした。ただ寝ているだけではないか」

「……え?」

 涙でぐしょぐしょになった顔が固まる。

慌てて劉赫の胸に耳を当ててみると、ドクッドクと確かに心臓が動く音がした。

「え……本当に?」

 次に劉赫の顔を食い入るように見つめる。

すると、唇から微かにスースーと寝息をたてている。

「本当に……寝てる……」

 さっきまで悲しみに打ちひしがれ、泣いていていた自分が馬鹿らしく思えてきた。

「紛らわしいのよ、この阿呆!」

 スコーンっと綺麗な音を立てて、劉赫の頭を叩く。

皇帝に向かって阿呆と言うのはどうかと思うし、皇帝うんぬん抜かしても大怪我して倒れている人間の頭を叩くのはいかがなものかと仙は思ったが、あえて口にはしなかった。