劉赫を刺した華延は、本懐を遂げたことで、意識を失って横に倒れた。

それと同時に、華延が握っていた短剣も、カラカラカラと音を立てて床に転がる。

切っ先には、確かに血がついている。

「劉赫!」

 血相を変えた雪蓉が、走ってくる。

劉赫は、自分の胸から熱い血が流れるのを見て、刺されたのだと実感した。それも、実の母親に。

「大丈夫⁉」

 雪蓉は、倒れた華延を一切無視して、劉赫の胸から溢れてくる血を手で押さえた。

「あー、今度こそ駄目だろうな」

 劉赫は、まるで他人事のように淡々と言った。

 自分を殺したのは、神龍でも饕餮でもなく、実の母親という現実に、なぜか笑いが込み上げてくる。

大好きだった母、優しかった母。その母に殺されるとは、なんという巡り合わせか。

(死に方としては……最悪だな)

 恐れられていたことは知っていた。

けれど、殺したいほど恨まれていたとは知らなかった。

唯一生き残り、体に神龍を宿した劉赫のことがよほど許せなかったのだろう。

 ただ、守りたかっただけなのに。

やりたくもない皇帝となり、この国を守るために自分を犠牲にしてきた。

 この国の中には、もちろん母も含まれる。劉赫の顔を見て、恐怖に怯えた母でさえも、守りたかったのだ。

それなのに……。

 全てを犠牲にしてきて、最後はこれかと思うと、悲しみや怒りを通り越して笑いたくなる。

自分の人生とは何だったのか。つくづく思う。

あの時、兄上と一緒に死んでいれば良かった。