華延は、劉赫を傷つけてしまったことを気に病んでいた。

として、息子の危機は、後宮でじっとしていられないほど切迫した不安事だったのだろう。

 雪蓉は、不審がることなく、むしろ微笑ましい気持ちで華延を見つめた。

 華延が、心配して駆けつけたと知ったら、劉赫は喜ぶに違いないと思った。

表向きは、気恥ずかしくて、ぶっきら棒に相対するとしてもだ。

 華延は、雪蓉に一言も声を掛けることなく、大廟堂の中に進んでいった。

 饕餮は眠っているとはいえ、まだ危険なことに変わりないので止めようか迷ったが、それよりも親子の久しぶりの対面に水を差したくない。

 雪蓉は扉の前で、華延の後ろ姿を見守った。

 華延は真っ直ぐに劉赫の前に行き、起き上がることすらできずにいる息子を、無表情で見下ろした。

「母上……」

 劉赫は戸惑いながら、華延を見上げた。

何しろ十四年ぶりの再会である。

 何を言ったらいいのか、突然の登場に動揺を隠せない。

「大きくなったわね」

 華延は、小さな声で言った。

顔は、相変わらず無表情のままだが、言葉には哀愁が漂っていた。

 母上は、お変わりなく……と言った方が女性にとっては嬉しいだろうと思いつつも、顔に刻まれた皺や年月を感じる悠揚たる雰囲気に、十四年の歳月を感じた。

「母上……あの……」

 告げたい言葉は山ほどある。

兄上を見殺しにして申しありませんでしたという謝罪の言葉を言わなければいけないと思うし、息災ですか? と近況も聞きたい。

 まずは、どの言葉を言おうかと逡巡していると、華延が先に口を開いた。

「これで、終わりにしましょう、劉赫」

 華延の瞳が、紅く光った。

そして、懐から短剣を取り出し、迷うことなく劉赫の胸に突き立てた。

 あまりに予想だにしない、一瞬の出来事だったので、雪蓉は一歩も動くことができなかった。

手足を動かすことすらできない今の劉赫に、逃げることなど不可能だった。

「母……上……」