「助かったんだから、もう少し嬉しそうな顔をしなさいよ」

「まったく手放しで喜べん……」

 劉赫は深く落ち込んでいた。

嫌がる雪蓉を無理やり後宮に連れてきたにも関わらず、一番懸念していた事態に陥ってしまった。

しかも、原因は劉赫本人である。

 もしも連れてこなければ、雪蓉は仙になっていなかったとかもしれないと思うと、色々と思うところがあるのである。

「まあとりあえず、私たちも外に出ましょう。饕餮がいつ起きるか分からないし」

「そうだな」

 その点については賛成だ。

安心しきるのはまだ早い。

仙が戻り、眠っている饕餮の周りに結界を張らないと終わったことにはならない。

「おぶって扉まで連れて行くわ」

「いや、それはいい」

「なんでよ」

「その仕事は男に頼む」

「さっきは大人しく私の背に乗っかったじゃない」

「緊急度が違うだろ。女に運ばれるなんて、男の矜持(きょうじ)を考えろ」

 面倒くさい奴だなーと思いつつ、劉赫の意思を尊重して、一人で扉の前に向かった。

 そして、「もう安全なので開けてくださーい」と言うと、分厚い扉がギギギと音を立てて開いた。

 門番が扉を開くと、真正面にいたのは意外な人物だった。

「華延様……?」

 どうしてここに、というのが、雪蓉が最初に思った言葉だった。

 劉赫の母、華延は、落ち着いた藍色の上襦を羽織り、口を真一文字にして立っていた。

 側女もつけず、たった一人でこの場にいることに、雪蓉は少し不思議に思った。

けれど、華延と話しをしたことがあったので、彼女がおっとりとした性格で、子供思いの良き母親だということは知っている。

恐らく劉赫を心配し、駆けつけたのだろうと思った。