このまま黙って二人とも死ぬくらいなら、人間ではないものになったとしても構わない。

 雪蓉の強い意思に反応し、琥珀糖が内側からぼんやりと光り出した。

 その時、壁に衝突して動けずにいた饕餮が立ち上がり、頭を左右に振った。

そして、ゆっくりと振り返り、劉赫と雪蓉を瞳に捕らえた。

(仙の力を……私に!)

 雪蓉は強く願った。

渾身の力を内部から引き出し、小さな琥珀糖にぶつける。

 すると雪蓉の体から風が吹き、突風となって辺りを包み込んだ。

そして、風が消えると、琥珀糖は神々しい光を放っている。

(仙術が、宿った!)

 手に持った琥珀糖に、確かな手応えを感じる。

 大きな口を開き、二人に向かって突進してくる饕餮に向かって、雪蓉は勢いよく手を振りかぶった。

「私の渾身の一品、いただきなさい!」

 雪蓉は、琥珀糖を饕餮の口に向かって投げた。

なにしろ人間の体よりも大きい口である、外すということはあり得ない。

饕餮の口の中に入った琥珀糖は、溢れんばかりの光を放つ。

 饕餮も、自分の口に入ったものはなんだと驚き、足を止めた。

そして、口を閉じて琥珀糖を飲み込む。

饕餮の体の中に入った琥珀糖は、饕餮の内側から淡く輝き、そして、光を失った。

 琥珀糖を食べた饕餮は、急に大人しくなり、眠そうに大あくびをすると、そのまま床に体を丸めた。

 劉赫と雪蓉は、黙って饕餮を見守るように見つめ続けた。

そしてついに、饕餮は大きないびきをかいて眠り込んだ。

「よっし!」

 雪蓉は、饕餮が起きないように、控えめな声で、けれど力強く胸の前で拳を握った。

 対して劉赫は、ああやってしまったと至極残念そうな顔を浮かべている。

その表情を見て、雪蓉はとても不満そうだ。