「どういうこと?」

 荒唐無稽な話をしているのではないことは、劉赫の真剣な面持ちから察することができた。

「仙は一つの能力を極める代わりに、命を失う。

そして、望んだ能力以外に対する執着をなくす。人間の心さえも消えていくんだ」

「え、じゃあ、仙婆は……?」

「人間じゃない。お前も見ただろう、あの身のこなしを」

 確かに、人間とは思えない速さだった。

老婆の見た目で、あの動き……。

常人ではないと思っていたけど、人間ではないなんて。

 仙になることが夢だった。

今では夢というよりも目標に近いほど、手が届きそうな存在となっている。

 ずっと憧れ続けてきた仙が、命を失う代わりの代償だったなんて。

「でも、命を失っても死ぬわけじゃないでしょ」

「人間の雪蓉は死ぬ。感情や記憶がなくなっていくんだ。

大切な記憶も、人を思いやる感情もなくなる。残るのはお前じゃない。

雪蓉の体をした魔物だ」

 雪蓉は、自分の中の大切なものが壊れていくようで、カタカタと小刻みに震え出した。

 真っ青になっている雪蓉に、劉赫は諭すように告げる。

「仙になるな、雪蓉」

 劉赫の真剣な眼差しに、雪蓉の心が揺れる。

 仙になることは、命を捨てること。でも……。

「……あんたを救うためには、仙になるしかないのよ」

 雪蓉は、覚悟を決めた声で、静かに力強く言った。

 劉赫は、ハッとする。

雪蓉の新たな強い意思を感じて青ざめた。

「駄目だ、雪蓉!」

 劉赫の悲痛なまでの叫びは、雪蓉の心には届かない。

 劉赫を守るために、仙になる。