「とにかく俺を下ろせ! もう必要ないだろ!」

 苛々しながら劉赫は言った。

好きな女に身を預けるという屈辱極まりない状況だったが、助かるために、というか、助けるために仕方なくおぶさっていたのである。

一刻も早く下りたい。

 雪蓉も、身軽になった方が饕餮と戦えると思ったので、劉赫を下ろしてやった。

「くそ……なんで動かないんだ」

 足どころか手も動かない。

これでは雪蓉を守ろうにも守れない。絶体絶命だ。

 雪蓉は、どうやったら饕餮に勝てるか頭の中で戦い方を想像した。

平低鍋は、もう必要ないだろうと思って置いてきてしまった。

素手で勝てる相手でもないだろう。

かといって、黙って食べられるわけにもいかない。

「あの子は、お腹が空いているのよ」

 雪蓉が、あの子と饕餮を呼んだので、劉赫は渋面を作った。

敵対する相手をあの子と呼ぶのはいかがなものだろうか。

それに饕餮は、可愛いと思えるところが一つもない。

「それはそうだろう。饕餮は満腹を知らない」

「いいえ、私たちが作り、仙の術がかかったものを食べれば、饕餮は満足して眠りに落ちるの」

「だが、仙はここにはいない。ついでに食べ物もない」

「そうね……」

 劉赫は、雪蓉が何を考えているのか分からなかった。

こんな会話は意味のないものだ。

それよりも、雪蓉だけでも助かる方法を考えなければいけない。

 雪蓉は、必死に頭を巡らせていた。

饕餮は、食べ物の量で満足するのではない。

仙が心を込め丁寧に作ったものなら、少量でも満足し眠りに落ちるという。

 少量でも……例えば、小さな飴玉程度でも。

「……あっ!」