喰われる! と思った刹那に、雪蓉の体が動いた。

赫をおぶったまま間一髪のところで避けると、獲物を捕らえ損ねた饕餮は頭から壁にぶつかった。

「あ、危なかった……」

 息を切らしながら、壁に衝突して動けないでいる饕餮を見る。

衝撃は大きそうだが、気絶はしていない。

また襲い掛かってくるだろう。

 雪蓉は、扉を見た。

さきほどの動きで、扉は遠くなり、饕餮の横を走らなければ辿り着けない。

 雪蓉と劉赫よりも、饕餮の方が扉に近い。

最悪の結果を想像し、雪蓉は覚悟を決めた。

「扉を閉めて!」

 饕餮が起き上がったことに恐怖を感じていた門番は、躊躇うことなく扉を閉めた。

「何を!」

 焦ったのは劉赫である。

自分一人が取り残されるならまだしも、雪蓉も閉じ込められる形となってしまった。

「お前は……自分が何をしたのか分かっているのか⁉」

 劉赫の怒声は、自分の身が危険になったことに対してではない。

雪蓉の命が危うくなったことに、心底怒っているのである。

「私に、あなたを扉の外まで投げられるほどの力があれば良かったと心底悔やんでいるわよ。

もっと体を鍛えておけばよかった」

 成人男性を背におぶり、動けるほどの怪力を持ちながら、雪蓉は本気で悔しがっていた。

 そこじゃない、と劉赫は思いながらも、もう起こってしまったことは取り返しがつかないので、奥歯を噛みしめ切り替えることにした。

(考えろ、考えるんだ。雪蓉だけでも助かる方法を……)