そして、仙は一瞬で姿が見えなくなった。

 二人のやりとりを聞いていた雪蓉は、意味が分からない。

「宝玉が聖堂に? 宝玉はこの世に二つとない物ではなかったの?」

「神龍が俺の体に宿る時、宝玉は聖堂に戻るのだ」

 どうやら、神龍が持つと凶暴になる宝玉は、自らの意思で聖堂に瞬く間に戻っていけるらしい。

不可思議なことだが、一応は理解した。

「聖堂はここから近いの?」

「普通の人間が走って戻るのに、一時間はかかるな」

「一時間⁉ どうやって時間稼ぎするの⁉ 饕餮はもう起き上がりそうよ!」

「だから仙に頼んだ。そもそも聖堂は普通の人間が入れる場所じゃない。それよりも……」

 劉赫は、ふらふらよろめきながら立ち上がろうとしている饕餮を睨み付けて言った。

「俺を抱えて、扉まで走れるか? とりあえず宝玉が戻るまで、饕餮を大廟堂の中に閉じ込めておく」

「それはできるけど……」

 宝玉を手にしたら、再び神龍を解き放つつもりなのだろうか。

きっとそうだ、そうに違いない。

この体で再び神龍を出せば、今度こそ生き延びることはできないだろう。

 迷っている雪蓉に、劉赫が焦ったように大きな声を出した。

「早く! 思っていたより回復が早い!」

 雪蓉は、ハッとして饕餮を見た。

饕餮は立ち上がったが、まだ足に力が入らないようで、よろめいている。

 雪蓉は一旦考えるのを止め、劉赫を背におぶって走ろうと身構えた。

その時、饕餮が、雪蓉と劉赫の存在に気が付いた。

 雪蓉と饕餮は、目が合った。

やばい、と思った瞬間、ふらふらしていた饕餮が大きな口を開けて襲い掛かってきた。