「実は息をするのも苦しい。少し頭を上げてくれないか?」

「え? こう?」

 雪蓉は倒れている劉赫の頭をそっと持ち上げた。

「そう、そのまま膝に乗せてくれると助かる」

「分かった」

 雪蓉は素直に指示に従い、劉赫の頭を自分の膝に乗せた。いわゆる膝枕である。

「どう? 少しは楽になった?」

「……最高だな」

 劉赫は、生きていて良かったと思った。

 実際は、膝枕しようがしまいが、痛いことに変わりはない。

しかし雪蓉は、劉赫の嬉しそうな顔を見下ろし、よっぽど呼吸するのが楽になったのだなと思った。

劉赫にとって、幸せな勘違いである。

「しばらくこのままでいいな」

「早く医者に診てもらいなさいよ」

 雪蓉の的確な突っ込みが入る。

 劉赫にとってご褒美の時間は、長くは続かなかった。

穏やかで満ち足りた時間は、すぐに終わる。しかも、最悪の形で。

 饕餮の体が、ピクリと動いた。

 すぐに二人は気が付き、辺りに緊張感が走る。

 饕餮がもぞもぞと動き出した。

まだ立ち上がってはいないが、意識を取り戻したようだ。

「仙、頼みがある」

 大廟堂の扉の前で二人の様子を見ていた仙に向かって、劉赫が声を掛ける。

「何用ぞ?」

「宝玉を、聖堂の中から持ってきてほしい。そこに戻っているはずだ」

「……承知した。わしが戻るまで、死ぬでないぞ」

「努力はする」