雪蓉は、北衙禁軍と共に仙術に冒された衛兵たちを一人残らず元に戻し(頭を殴って倒したともいえる)、大廟堂の前でハラハラしながら戦いが終わるのを待っていた。

 中に入って加勢できないのがもどかしい。

扉を開けて中に入ろうとした雪蓉に、仙が「もし饕餮や神龍が外に出てしまったらどうするのじゃ! すべて台無しにする気か!」と一喝され、渋々待っていたのである。

「……終わったようじゃな」

 仙の小さく呟いた声を聞いた雪蓉は、待ってましたといわんばかりに扉の打掛鍵を外した。

門番がいるにも関わらず、雪蓉自ら分厚い扉を渾身の力で開け放ち、だだっ広い大廟堂の中を見ると、黒い毛むくじゃらの大きな動物のように見える饕餮と、劉赫が床に横たわっていた。

(ほら、言わんこっちゃない!)

 倒れている劉赫を見て、急いで駆け寄る。

「劉赫! 大丈夫⁉ 生きている⁉」

 劉赫の顔を覗き込むと、劉赫の瞼が動き、ゆっくりと目を開けた。

「良かった……なんとか生きてる」

 雪蓉が今にも泣き出しそうな顔で安堵すると、劉赫は不思議そうな顔をした。

「雪蓉、どうしてここに?」

 劉赫の声は掠れていた。まだ、息をするのも苦しそうだ。

「心配で駆け付けたのよ。あんたまた、死にかけてるんじゃないかと思って」

 予想は的中だった。やっぱり死にかけていた。

「そうか……」

 劉赫は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「大丈夫? 立てる?」

「それは無理だな。肋骨が折れてるし、足や手も曲がってはいけない方に曲がった」

「とんでもない大怪我じゃないの!」

 雪蓉は真っ青になり叫んだ。