劉赫を攻撃するつもりで当てたのではなくとも、巨大な肢体にぶつかった衝撃は相当なものだった。

 肋骨が折れ、口から血が出る。

血の匂いに反応した饕餮が、神龍ではなく劉赫を襲いに向かってくる。

 痛みを堪え、神龍と饕餮、二つの霊獣から必死で逃げると、二か月前の戦いを思い出した。

(そうだ、この前もそうだった)

 消えかけていた記憶が、まざまざと蘇る。

思い出さないように蓋をしていたのに、恐怖と痛みが、再び現実のものとなって襲い掛かる。

 いくら武力を鍛錬したとはいっても、人間が霊獣にかなうはずがない。

とにかく逃げるのみ。

しかし、大廟堂の中は封鎖されている。

(これは……死ぬな)

 逃げながら、劉赫は確信した。

 無理だ、この状況で生き残るなど。

 もしかしたらまたなんとかなるかもしれないと望みを持っていただけに、この絶望的な状況は精神的に堪えた。

(どうせ死ぬなら、変な意地を張らず、雪蓉に想いを告げれば良かった)

 もしも、好きだと言ったら、あいつはどんな顔をしたのだろう。

 思い出すのは、死んだ兄たちではなく、初めて惚れた女の顔。

 振られるのは分かっている。というかもう振られている。

 驚いた顔をするだろうか……。見てみたかったなと思う。

 死を間際にして、なぜか雪蓉の驚いた顔を想像して、笑みが零れた。