雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)は、瑞歯別大王(みずはわけのおおきみ)に付き添って、百舌鳥野(もずの)付近に来ていた。
この辺りは渡来人(とらいじん)が多く住んでおり、大和はそんな彼らから様々な技術や知識を得ていた。

さらにここから少し行った先には、彼らの父親である大雀大王(おおさざきのおおきみ)が眠っている。大王の墓とて、渡来人からもたらされた技術がなければ、中々作るのは難しかっただろう。

今回大王達がここに来たのは、最近倭国(わこく)に来る渡来人が急激に増えだした為、その視察を予てやって来ていた。

「話しには聞いていたが、この辺りは本当に半島から来た人間が増えたようだ」

瑞歯別大王は、そんな渡来人達を見ながら思った。大和としては彼らの高い技術や知識を得る為、彼らを拒む事なく受け入れる事にしている。


この時代、倭国の大王は半島のさらに奥にある大陸の(そう)に、遣宋使を使って貢物を持って参上していた。
それは宋の冊封体制(さくほうたいせい)下に入って官爵(かんしゃく)を求める為だ。

冊封体制に編入されると、両国の間で君臣関係が成立する。
倭国の大王は、宋の皇帝に対して臣下としての礼節を守らないといけない。

大王は宋からの出兵要請があれば応じ、隣国が宋に使者を派遣する際には妨害をしてはならない。

宋の皇帝は、その代わりに倭国が外敵から侵略される場合に、これを保護する責任を持つ。

こうする事で、宋の先進的な技術や知識を得られると共に、皇帝の威光を借りることによって大和の周辺の豪族を抑え、倭国内の安定を図る目的があった。


そして瑞歯別大王は、この度宋の皇帝より【安東将軍 (あんとんしょうぐん)倭国王(わのこくおう)】に除正された。
除正とは、宋の皇帝より称号を授与される事を意味する。

「本当にそうだね。今後は外の国との関係維持はかなり重要になってくると思う。それに倭国内の他の豪族達とも、安定的に政り事を行っていきたい」

瑞歯別大王の隣りで、雄朝津間皇子がそう言った。彼も何だかんだで大和の将来を気にしているみたいだ。

大王は、彼にもっとこの国の事を真剣に考えて貰うきっかけになればと、今回連れてくる事にした。
仮にもし自分に何かあれば、次の大王はこの弟が有力になるであろう。

(叔父の稚野毛皇子(わかぬけのおうじ)も皇族の皇子だが、何分彼は人が良すぎるからな)

「まぁ今回の視察は、この地域でおかしな動きがないかの確認で来ているだけだ。渡来人は、自分達の国を追われてやって来た者達ばかりだ。不穏な動きがあってはならないからな」

瑞歯別大王はそう答えた。

だが彼が見ている感じでは、今の所特に悪い感じには見えない。

「それにしても、まさか俺までここに来る事になるなんて思ってもみなかったよ。元はと言えば、忍坂姫(おしさかのひめ)がここに来たいなんて言うから……」

雄朝津間皇子はその場でガクッと肩を落とした。