かと言って、中学三年生の私には、一人で生きていく経済力もお金も皆無だ。お金なんてポケットに小銭が650円と小学校の卒業式で貰ったまま、ほったらかしている図書カードが一枚だけ。

そして、学校の鞄には、ほとんど(めく)ってない教科書と筆箱、着ていない体操服が雑に入っていて、スマホだけが、私のライフラインだった。掲示板サイト『寂しがり屋のクマ先生』で知り合った数人の名前が、下の名前だけで入ってる。

皆んな本名かどうかわからないし、そんな事どうでもいい。ただ、どうしようもなく寂しい時、素直に寂しいと言えるのは、こんなネットの世界だけだった。

ある日、偶然見つけた、掲示板サイト『寂しがり屋のクマ先生』は、可愛らしいりんごを持った、白クマのマスコットが描かれていて、背景は青空。この辺りが居住区の人間だけが、登録できる、所謂(いわゆる)地域密着型のお悩み相談サイトだ。

此処に寂しい思いを吐き出したら、運営管理人のクマ先生から、返事が来るシステムで、チャット形式での会話に参加することもあったけど、私は個人間でのやり取りを希望した。あと、私は登録の際に、「(まさる)」と名乗って男のフリをする事に決めていた。

私の本名、春野優(はるのゆう)を男に見えるように別の読み方にしただけだけど、なんだが個人情報が守られるような気がして、少しだけ、安心したから。

私は、どうしてもしんどい時、此処に、心の中を吐き出して、クマ先生からの返事に、救われていた。

そして、この時はまさか、先生に面と向かって会う機会が訪れるなんて、夢にも思ってなかった。