「あれ、先生、普段、俺?なの?」  

すかさず、聞き直した私に、はははっと俊哉が笑った。

「恥ずかしいな、先生ぶってるけど、実は、俺まだ一年目だから」

「え?じゃあ……」

「今年23だよ、優からしたら、おじさんだな」

私が、(そら)で年齢を計算しようとしたら、先に俊哉が答えた。

おじさんなんかじゃない。今まで接したことない、大人の男の人に、私は少しだけ鼓動が早くなった。

「優、進路は?決まってる?」

私は小さく首を振った。

「でも、絵を描きたい」

すると、俊哉は、黒い鞄から、スケッチブックを取り出した。

「描いてごらん、見てあげるから」

「え?何を?」

「優は?何を描きたいの?」

「……笑わない?」

俊哉は、困ったような顔をした。

「笑ったりしないよ、僕だって教師の端くれだ。大事な生徒の話を、笑ったりなんかしないさ」    

俊哉の口から、自分の事を大事な生徒、と言われて素直に嬉しかった。

「先生……私ね、生きてるものを描きたいの」

「生きてるもの?例えば?」

「花とか、鳥とか、……人間とか」

「じゃあ、俺描いてみてよ」 

戸惑う私を眺めながら、俊哉は、唇を引き上げた。