俊哉は、少しだけ目を見開いてから、黙って頷いた。

それから、私は、親の不仲のこと、離婚が決まって、母親についていくこと、母親との関係がうまくいってないことを話した。

「……そうか。……大人は勝手だからな。というよりも、大人であろうとするが故に、そんな風に自分を守ろうとして、時に誰かを傷つけてしまうんだと僕は思う。でもな、だからと言って、優のこと、大事じゃない訳じゃないんだよ」

俊哉の言葉に重ねるように、私のスマホが鳴り響いた。

液晶画面には『ママ』と浮かんでいる。

「優?電話出たら?」

俊哉は、そう言ってくれたけど、私はラインのメッセージで母親に返事をした。

『もう少ししたら帰る』

それだけを送った。そして、私は、俊哉の事で、気になっている事を思い切って訊ねた。


「ねぇ、先生、美術教えてるの?」

「あぁ、今は鉛筆のデッサン画の授業をしてるよ、まさ、いや、優は、美術に興味があるの?」 

「……うん、下手っぴだけど、でも書いてると何も考えなくていいから。白と黒と自分だけの世界だから」

「そうだな、俺、いや、僕も、真っ白なキャンバスとただ向き合ってる時間が1番好きだな」