「僕もね、家出したことがあったんだ。ちょうど、(ゆう)くらいの時かな」

「え?」

今度は、私が聞き返した。

「僕の家、ちょっと他の普通って呼ばれる家とかと違ってね、母親と呼ぶ人とは、血が繋がってなかったから」

俊哉は、義理の母との関係がうまくいかなかったこと。やがて生まれた年の離れた弟が出来てから家で疎外感を味わっていたことを、淡々と話した。私は黙って聞いていたけれど、俊哉の横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。

「……あまり聞いていて、楽しい話じゃなかったね。ごめん」 

そう言うと、俊哉は、また黙って、夜空を見上げ始めた。どのくらいそうしてただろうか。

俊哉は、ただ黙って私の隣で、側に居てくれた。

「……私……」

「あ……僕の話をしたからって、別に優が無理して話すことじゃないからね」

穏やかに微笑んだ俊哉の顔に、なぜだかひどく安心した。

「先生、聞いてくれる?」