俊哉がゆっくりと振り返り、驚いたように私を見た。

「あ……、えっと、まさる?」

私は、こくんと頷いた。 

「あ、……初めまして。クマ先生です」 

生真面目にぺこりとお辞儀をすると、私を安心させるかのように、少しだけ笑った。

初めて見た俊哉の顔は、切長の瞳に目尻が少しだけ下がっていて、凛とした柔らかい印象を受けた。

「どうぞ」

俊哉は、先程まで座っていたベンチの前に立つと、掌を差し出して、私に座るよう促した。

そして、ベンチの端のギリギリまで私と距離を空けてから、俊哉が座った。

「まさる、中学生だったんだな」

俊哉は聞かない、私の本当の名前も、男の子だと偽っていたことも。

私の制服姿だけみて、それだけ言った。 

「あの……ごめんなさい、私、先生に」

「いや、僕こそごめん。男の子のフリは、文字の感じと、一度だけ、まさるが、『私』って一人称で送ってきていたから、気づいてたんだけど、僕は、指摘するつもりもなかったし、それに、ネットでの生徒に、こうして会うこともないと思ってたんだけどね。でもまさか家出するとは思ってなくて……僕も教師なんてもんやってるから、生徒の家出は放っておけなくてさ……」