恐る恐る問うと、彼女はゆっくり肯いた。

『みんなは、別個人として転生を繰り返す呪詛の中に居る。わたしは、わたしのまま転生を繰り返して来た。今の名前は『梨実海雨』だけど、意識はずっとわたし――真紅たちが始祖当主と呼んだ者でしかないの。……今まで黙ってて、ずっと隠していて、ごめんなさい。……軽蔑、したよね………』

『ご当主様は――』

哀しみしか浮かべない彼女を遮って、私は口を開いた。

『ご当主様は、哀しみの中に、ずっとおられますか? 海雨は、私の親友は、いつも笑顔でした』

どれほど辛い時でも、痛みに囚われているときでも、海雨は笑顔を絶やさなかった。

その強さに、私は憧れていた。だから、

『ずっと笑顔だった海雨に、私は助けられていました。母と――家族と一緒にいられないときも、海雨の強さに引かれるように、私も笑顔でいることが出来ました』

『………』

彼女は黙って私の言葉を聞く。

『海雨がいてくれたから、私は一人の時間ばかりでも生きてくることが出来ました。あなたが否定されようと、私の親友だった海雨は、確かに居ます。私が全部、憶えています。私の感情を伴って、私が、忘れることも手放すこともしません。あなたが始祖当主でも関係ありません。私はあなたを『海雨』と呼びます。……あなたが私を『真紅』と呼ぶように』

最初から彼女は、私に『真紅』と呼びかけて来た。

にっと、笑って見せる。

『私を『真紅』と呼ぶ親友は、私には海雨だけですから』

彼女が大きく瞳を揺らした。私は続ける。

『元々私、大人数でいるより、仲のいい子一人と、二人でいる方がすきなんです。だから、私は海雨と一緒にいるのがすきだった。だから……せめて、謝らないで。ご当主様に辛い思いをさせたのも、私たちの始祖であることには変わりないから』

始祖当主だけが、罪の権化ではない。泰山府君祭を行うことを決めたのは、始祖たちの総意なのだから。