《巫女様。今日も海雨様のところへ参りましょう。海雨様から、お話を聞いた方がよいと思います》

昨日、海雨の様子が変だった理由。

原因が澪さんのことだろうとはわかるけど、詳しく何があったのかは知らない。

海雨は頭の整理がついたら話すようなことを言っていたけど、今日逢いに行ったら話せる状態には回復しているだろうか。

「………」

昨日私は澪さんに、海雨はあげないと言い切った。その理由は、私は誰にも話したことがない。

始祖の転生だけが知っている、『始祖の転生がいる理由』。

カバンを摑む手に力が入る。

――始祖の転生とは、いわば監督者だ。これ以上、影小路が罪を重ねないための。

「真紅ちゃん」

いつも通り朗らかに声をかけてきたのは架くんだった。

その名にこめられた意味を、当人は最近理解し始めた。

「架くん、おはよう」

「おはよ。いつもより元気ないね?」

当たり前のように並ぶ架くん。

王子様然とした架くんへの注目のおかげで私まで衆目の的になっていたのだが――しかも斎陵学園の生徒ならほぼ知っている影小路姓だし――、架くん本人から、『真紅ちゃんは兄貴の彼女だから』と言ってくれたので、私と架くんの仲を邪推した嫌がらせは今のところ起きていない。感謝だ。

「そうかな? ママにもそれ、言われたよ」

「兄貴が見たら心配するよ?」

「黎とはしばらく逢えなくて……」

「なにかあったの?」