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 つい先ほどのこと。

 クズ上司と会社を出て2人でビジネスホテルに向かっていたとき、道路を挟んで向こうにいた遼太郎と目があって、頭から血の気が引いた。

 こんな姿見られたくないと、見ないでと、この瞬間世界で1番強く願ったのに、遼太郎は驚いた顔で私をまっすぐに見つめていた。

 私は男を振り切って路地裏に逃げ込んだけど、目の前には壁しかなくて。男に顔を殴られそのまま地面に押し倒される。

 シャツのボタンが弾け飛び、タイツがビリビリと破け、パンツのチャックが下される。

 今日も今日とて単調な地獄が始まる。ああでも、外は初めてだ。背中がアスファルトに擦られて痛いし、新鮮な気持ちになれるかも。いや、なる、なれ、ならないと死ぬ。

 殺してやる。絶対、絶対に。この男を、私の手で。
 

『麗華!!!!!』


 強い叫び声が聞こえたあと、一瞬記憶が飛んだ。遼太郎が泣きながら私を見下ろしている状況を見込めない。

 体を起こして、目に飛び込んできた光景に息を呑む。男の頭と顔が潰れていて、アスファルトは血だらけだった。

 そばに落ちてたコンクリートブロックも赤く染まっていて、遼太郎の手も赤色だった。

 神様、どうして。

 遼太郎が私の神さまになる必要がどこにあった?助けなんて求めてなかったよ?いつかこいつを殺してやろうと思っただけで、ただ、それだけで。

 
 いつ間違った?なにを間違った?なぜ間違った?

 最初から、ぜんぶ間違いだった?


 無意味な間違い探しをおわらせたのは、私の手に触れた、遼太郎の血だらけの手。遼太郎のやさしすぎる手。

『麗華、きこえる?』

 小さく頷くと、遼太郎はにこやかに笑った。泣いてるみたいに笑っていた。

『俺に、リベンジデートさせてくれない?俺が交番に自首するまででいいから、ね?そこまでなら我慢できる?』


救急車を呼んだあとに始まった、一駅分の真夜中デート。走馬灯のように流れるのは私たち2人のダイジェスト。

 缶ビールシャワー、牛丼屋のカレー、スケボーブラザーズ、KIOSKのおばちゃん。

全部、思い出せる。あのときの感情がぜんぶ、道に焼き付いている。