歩く道の先に、淡い光に照らされた交番がある。あと数十メートル。あそこが、真夜中デートのゴール地点。

 重力が倍になった気がした。足が重くて、前に進めない。進みたくない。


「…遼太郎、もっとゆっくり歩こうよ」
「これ以上?不審者って思われそう」
「じゃあ遠回りしよう。意味もなく道を逸れてぐるっと一周」
「あのなあ、麗華。見てよ?交番はすぐそこ。抵抗する意思はないって伝えないと。俺の手、血まみれなんだから」

 私たちの手は繋がれている。手のひらには血が滲んでいる。

「…遼太郎は、わるくない。私が…ごめん、ほんとうに。わたしが、私のせいで、」
「謝んないで」

 遼太郎は笑い顔と泣き顔が似ている。今のもたぶん、笑っていた。


「俺が、間違っただけ。間違って人を殺した。それだけ」

 かすれた声は震えていた。