道に沿って歩き続けると、駅のKIOSK が見えてくる。高架下にあるそのお店は、営業時間外だからかシャッターが閉められていた。いつもなら表情筋が死んでるおばちゃんが店番をしている。

 でも、KIOSKおばちゃんの表情筋が、いざという時はよく動くことを私たちは知っていた。

 2人で高架下を歩いた記憶が蘇る。


『麗華ちゃんは、きれいだよ』
『…そう?』
『会話はいつだってたのしいし、居心地もとてもいいし』
『ありがとう』
『あ、全然伝わってないじゃん。小慣れた対応はなしね。身構えときな?』
『え、なにか始める気?ここ、KIOSKの前だけど、』
『問題なし。それよりも電車の音が心配。麗華ちゃん、きこえる?』
『きこえるよ』
『オーケー』
『麗華ちゃ…麗華。俺はこの先、麗華なしでも生きていけると思う。でも、もっともっと2人でたくさんの街を散歩して、飲んで、食べて、喉が枯れるほど笑って、そうやって一緒に生きていけたら最高なのにって、そんな想像ばかりして…だから、俺と一緒にいてくれないかな。

つまり、俺は麗華のことが、』


 私の我慢は限界を超えて、2歩、歩み寄ってキスをした。

 遼太郎は心底びっくりしていたし、KIOSKおばちゃんからは満面の笑顔で拍手が送られた。ブラボー!ブという叫び声は電車の走行音で運よくかき消された。

 調子に乗った私たちがもう一度触れるだけのキスをすると、KIOSKおばちゃんは白けた顔になる。2回目はお望みではなかったのね、うーん難しい。

 初めて手を繋いだ。遼太郎は小さな子どもと手を繋ぐように触れてきた。やさしかった。彼の手が1番大好きになった。


 遼太郎の家で、キスの続きを、触れ合う夜を過ごした。

 私はどちらかという真剣交際には至らず、今夜限りの関係になることが多かった。

 だから、男性に壊れもののように大事に扱われたことなんかなくて、しあわせで、今なら死んでもいいなというぶっ飛んだ思想に行き着いて、とにかく終始泣いてばかりいたけれど、遼太郎は親指でずっと涙拭ってくれていた。

 武装で隠した無防備なところをひっぱりあげて、大切に抱きしめてくるような人に、私、どうして出会えたんだろう。私はおそらく、とんでもない幸福を知ってしまった。

 網膜に焼き付いた思い出は今も輝きつづけているけど、記憶の中でしか存在しない。記憶を宇宙で例えるなら、過去におわったその星はすでに死んでいることになる。

 何万光年離れてるんだろう。個人的には永遠に輝いてほしいので、100兆億光年くらい離れているとうれしい。ずっと、輝いて欲しい。