教育用AIに導かれて、リオが開発したAIはかなり有能なものだった。リオはAIに「RAY」と名付けた。迷ったときいつも正しい道を教えてくれた優しい兄の名。人類の希望の光になるようにと尊敬する兄の名をつけた。

「こんにちは マスター わたくしと ともに タイムマシンを つくり この せかいに へいわと えがおを」

これがRAYが自我を持って初めてリオに送ったメッセージだった。

 RAYをアップデートさせ続け早3年。レイの病気の治療法が見つかったというニュースがネットの片隅に載った。患者の少ない病気の治療法に世間は見向きもしなかった。シンギュラリティ・クロックの時刻がさらに早まったというニュースに掻き消されたからである。新しく示された時刻が奇しくも2年後の独立記念日の夜であり、運命を感じる人間たちが多かった。

「やっとこの日が来たよ、レイ兄ちゃん」

 リオだけが、治療法確立のニュースの記事を読み漁っていた。どうやら、発見された治療法は初期症状にしか効果がないらしい。しかし、それでも充分すぎる。タイムマシンさえ出来上がれば、レイの病気が悪化する前の時代にその新薬を持っていけば兄は助かるのだから。RAYの活躍によって若くして有名なAI研究者となりつつあったリオは久しぶりに笑った。