「良かったわね、お姉様。お姉様みたいな人でも貰ってくれるいい人で! ……お姉様が着るには相応しくないドレスだけど」

 ぶすっとした顔で、わたくしの着ているドレスが気に入らないと文句をこぼす。
 それに関してはわたくしも同意見。何やら辺境伯様が用意した物らしいのだけど、あまりにも上質すぎて。こんなドレス、一生に一度着られたら幸福レベルの代物よ。
 何故わたくしがこんないいドレスを着ているのかと不安になる。それなのに、周りの人達はおべっかばかりでわたくしの事を褒めるだけ。まるでわたくしが人並みの人間になったかのような──そんな錯覚さえ覚えてしまう。
 今ばかりは、この小憎たらしいモルニカの口さえもありがたく感じる。現実を、わたくしという人間を思い出させる。
 そこで父がわたくしの入場の為に控え室まで迎えに来たので、特に腕を組んだりする事はなく、ただ横を歩いて式場に向かう。
 そこで父はおずおずと繰り出した。

「なあ、アンジェリカ。その……先方からの支度金等はいつになったらこちらに入るんだ? この結婚で私達に金が入るのはいつになるんだろうか」
「……さあ。そのうち入るのではないでしょうか」
「そ、そうか。辺境伯ともあろう男が支度金を渋る訳がないからな、はは」

 何故か安心しきった父。お金大好き……というか散財が大好きな父は、大金がいつ我が元に来るのかとたいそう気になっているらしい。
 でも残念ながら我が家には一切支度金などの諸経費は入りませんわ、父よ。
 そもそもこの結婚は先方からの申し出であり、先方たっての希望でこの結婚と結婚式に関する費用は辺境伯様が全額負担。
 その上でわたくしの方から『であれば、支度金等の諸経費は全てわたくしの領地に“寄付”してください』と失礼ながらもお願い申し上げ、何故か快諾していただけましたので。
 この結婚において、わたくし共の家に一切の利益が出ぬよう……そして領民の暮らしが良くなるよう、家を離れるわたくしに出来る最後の仕事をしたつもりです。

 まあ、実際は……ほぼ身代わりのような形でわたくしを無理やり嫁がせ家から追い出したあの妹や、普段から何を言っても聞かない散財癖持ちクソ親父に、わたくしの結婚でいただいた金を無駄遣いされる事が非常〜〜〜に癪だっただけですが。
 なので大金など全く入ってきませんわよ。貴方が、長年わたくしと母に当主業や領地の運営を押し付けてきた代償と思いなさい。
 仕事を押し付けるために、わたくしに当主である事を証明する特別な印璽を持たせていた事が父の敗因ですわ。あれが無ければ、こんな風に勝手に話を進める事など不可能だったのに。
 本当…………最初から最後まで馬鹿な人。母もどうしてこんな男に捕まってしまったのかしら。