英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 胸を撫で下ろしかけたティーゼは、ハッとしてルチアーノの美貌を見上げた。

「確かに私、ルチアーノさんの名前を勝手に呼んでいました。貴族社会の礼儀作法ってよく分からないのですが、これって国際問題並みの失態ですかねッ? 今からでも『宰相様』って呼んだほうがいいんでしょうか!?」
「もう少し落ち着いたらどうですか」

 話しながら次第に混乱するティーゼを見て、ルチアーノが呆れたように眉根を寄せた。

「悪魔の貴族としての礼儀作法で言えば、あなたに名を呼ばれる事を、私が一度も口で否定していませんので問題にはなりません。あなたに今更『宰相様』と呼ばれる方が気持ち悪――気味が悪くて不慣れです」

 なんで似たような言葉で言い直した。何も変わってないからな?

 ティーゼは、どこにいても失礼な宰相に反論しようとしたのだが、ルイと見つめ合っていたはずのクリストファーが睨みつけるようにこちらを向いたので、咄嗟に口をつぐんだ。