英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「ルイさん! コレを持って、どうぞいってらっしゃいませ!」
「ティーゼ、でも――」
「こうしている間に、マーガリー嬢が通り過ぎちゃったらどうするんですかッ。私達のことは気にせずにどうぞ!」
「でも、可愛い女の子を放っておけな――」

 その時、後方で見守っていた彼の宰相が、後ろから上司の口を素早く塞いだ。クリストファーの秀麗な眉がピクリと反応し、ゆらりと手紙へ視線が向けられる。

「そうか、テイーゼの性別は把握済み――……」

 その時、クリストファーが不意に、ニッコリと爽やかな笑顔をティーゼに向けた。


「ティーゼ、君は魔王陛下のことは愛称で呼んでいるんだね。彼の名前を知るのは、ごく一部の者だけだと聞いたことがあるけれど」


 見慣れた笑顔であるはずなのに、首の後ろがチクチクする気配を覚えるのは気のせいだろうか。ティーゼは、気圧されてたじろいだ。

 というか、魔王の名前がそんなに重要だとか初耳なのだが……

 思わず口を塞がれたままの若き魔王を振り返ると、彼の口を背後から塞いでいるルチアーノと目が合った。ルチアーノが、ティーゼの顔に疑問を見て取り、「彼がおっしゃっているのは本当です」と静かな口調で答えた。