英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「……同じ匂いがする」


 小さな呟きだったが、それはやけに低く響いた。

 原因はまだ推測出来ないでいるが、何かに苛立っているらしい。ティーゼは、それとなく空気を変えてやろうと思い立ち、顎に手をあてて考え事をする幼馴染に声を掛けた。

「クリストファー? どうしたの?」

 呼んだ途端、クリストファーがぴたりと動きを止めた。

 ゆっくりとこちらを向いた彼の顔には、笑顔がなかった。ティーゼは、クリストファーのそんな表情を見たのは初めてで、よくは分からないが、彼がものすごく苛立っているらしいことが伝わって顔が引き攣った。


 思えば、過保護な彼は、ギルドの仕事だろうと外泊に対しては反対していた。もしかしたら、その件で……?


 そうするとルイは全く関係がないので、手紙大作戦の予定がある彼を巻き込む訳にはいかないだろう。

 ここは、ひとまずルイには別行動を提案しよう。マーガリー嬢が近くまで来ている可能性も考えると、長引かせるのも良くないと判断し、ティーゼはやや強引にルイへ手紙を返して強く主張した。