英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 確かにそうなのだが、こちらにだって事情があったのだ。国際問題に発展するような事態には陥っていないし、相手の身分が高すぎて断り帰るタイミングを色々と外してしまっていたというか――


 ……いや、確かに開き直って食事や温泉や、ふかふかのベッドを堪能してしまったが。

 更に先を思い返すと、クッキーも美味しく頂いたので、食い逃げするわけにもいかなくなったのも、ティーゼの判断ミスだったが。


 とはいえ、身分の違いがあるから付き合うな、というような台詞をクリストファーに言われるのは、他の誰に言われるよりも何だかやもやした。

「なりいきで、ちょっと付き合ってるんだよ。誰にも迷惑はかけてないのに、どうして怒ってるのさ?」
「立場の違いを分かってる? 君が相手だと、国際問題に発展しかねないよ」

 クリストファーの物言いは、珍しく厳しかった。

 幼馴染として付き合うにあたって、彼がこれまで身分の違いを口にした事はなかった。まるで、あの事件のことをまだ引きずっているから続けている関係だ、と言われていると勘繰ってしまいそうにもなって、ティーゼは、むっつりと黙り込んだ。