英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「夜には帰るだろうと思っていたのに、朝になっても戻ってこなかったから心配したよ。ギルドの仕事だったんだって?」


 声を掛けられて、ティーゼは視線を幼馴染へと戻した。

 目が合うと、クリストファーがにっこりと微笑んだ。やはり目が普段と違っているような気がして、彼から覚える静かな怒気を疑問に思いながらも、ティーゼは、言葉を慎重に選ぼうと目をそらして考えた。

「えぇと、うん。手紙を届ける仕事を――」
「ねぇ、どこに泊まったの?」

 ふと、間近から声が降ってきて、ティーゼは言葉を切った。

 顔を上げると、目の前にクリストファーが立っていた。一瞬にして距離を縮められたことに気付いて、ティーゼは半ば身を引いてしまった。クリストファーは構わず、少しだけ身を屈めるような仕草で目線の距離を縮めて来る。

「ねぇ、ティーゼ。どうして君が、魔王と、その右腕と一緒にいるのか聞いてもいい?」
「……どうしてって、頼まれた仕事先だったから?」
「手紙を届けるだけで、行動を共にしろとは言われていないはずだよね?」