英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 この町にいないはずの幼馴染の姿を見て、ティーゼは、しばし硬直した。

 英雄帰還の祝いは、王都を中心にまだ続いているはずだが、なぜ、今回の主役であるクリストファーが、こんな国境近くの町にいるのだろうか。

 クリストファーは、相変わらずどこにいても絵になるような、男女問わず目を引く柔かな美貌をしていた。太陽の光りに透けると明るい栗色にも見える癖のない髪。すっかり青年として成長した高い背丈と、優雅さの似合う端正な顔には、親身さの窺える柔和な微笑みが浮かび――


 そして、宝石のように美しい彼の青い瞳は、ずっとティーゼを真っすぐ捉えている。


 クリストファーは、相変わらず同性さえも蕩けそうな笑顔を浮かべてはいたが、ティーゼは奇妙な威圧感が拭えなかった。なんというか、目に殺気がこもっているような気がする。

「えっと、こんにちは……それから、お疲れ様?」

 突然の事で、幼馴染になんと声を掛けていいのか分からない。思えば、最後に顔を会わせたのは、彼が半魔族の王の討伐に出発する前のことだ。

 困惑しつつ声を掛けると、クリストファーが「ありがとう」と美貌を際立たせる優しげな笑みを浮かべた。