英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 そんな彼女の向かい側には、練習によって前向きな表情を見せるようになったルイがいた。

「ねぇ、ティーゼ。僕の渡し方はどうだった? スマートだったかい?」
「あ~……うまくいくんじゃないでしょうか」

 あまり見ても聞いてもいなかったけど、とティーゼは続く言葉を飲み込んだ。

 ぼんやりとではあるが、後半の練習では、女性が耳にしても好感触な褒め台詞が多く出ていた――ような気もする。

 ルイは、ティーゼの何気ない感想に満足したようだった。彼女とルチアーノを交互に見ると「手紙を渡した後は、どうやって立ち去るほうがいいかな」と次の課題を口にした。

「マーガリー嬢の前だと、いつも緊張してしまうんだ」

 そう言って、思案に入って腕を組んでしまった。彼の両手が塞がってしまったので、ティーゼは、受け取った手紙を返すタイミングを待ちつつも小首を傾げた。

 思えば、ルイはいつも緊張すると口にしているが、昨日の魔王と女騎士のやりとりを思い返す限り、彼の方には緊張なんてなかったように思える。