英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 だがしかし、現場を撤退するタイミングが掴めない現状は、実に悩ましい。


 相手がちょっとした貴族であれば、ティーゼも気兼ねなく「またな」と立ち去れるのだが、今回の相手は魔王。つまり、特殊なパターンだ。

 ティーゼとしては、本心から二人の恋を応援するつもりではあるが、予想される進展は亀の歩みほどの可能性が非常に高く、とりあえず国際問題に発展する事を避けるためにも、今は一刻も早い解放が望まれた。

「マーガリー嬢の代わりに口説かれておきながら、死んだ表情をするのはおよしなさい。陛下に失礼です」
「ルチアーノさんは黙っていて下さい。ルイさん、せっかく背丈を無視して練習出来ているのに、私が口を開いたら『声が違う』とか戸惑うかもしれないじゃないですか」

 十二回目の手紙を受け取ったティーゼは、ルチアーノの指摘にぴしゃりと返答した。

 何度考えても、本日の早い時間に休日プランがは勝ち取れる未来が見えてこないことに絶望する。手紙を渡す練習だけで十二回もするとは、一体どういう心情と思考回路をしているのだろうか。もはや、乾いた笑みしか出て来ない。