英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「可愛らしい女性を、木に例えて見るのは難しいよ」

 でも頑張るね、と彼は穏やかに微笑んだ。

 美貌の花咲く笑顔がきらきらと目に眩しく、そういえば彼は魔族一の超絶美形魔王だったな、とティーゼはまだ始まってもいない練習会に対して、どっと疲労感を覚えた。

 ようやく手紙を手渡す練習が始まり、ルイは、『呼びとめたマーガリー嬢にそれとなく話題を振る』という想定で練習した。

「マーガリー嬢、今日は手紙を書いて来たんだ」

 彼はそう言い、流れるような仕草でティーゼに手紙を手渡した。ティーゼは、ルイが想定しているであろうマーガリー嬢の反応が想像出来なかったので、口を一文字に引き結んで背景のように立ち、忠実な練習台と化していた。

 さすが魔族一の美貌とあって、恋した相手を想定した、ルイの甘い台詞や表情の色気は半端なかった。

 しかし、それが自分に向けられていないものだとは分かっていたので、ティーゼは、第三者の鉄壁の心構えで冷静に見守った。練習は二回ほどで終わるだろうと思っていたが、気付くと、三回目に突入していた。