英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

「どうも想定出来ないんだ……」

 途端に、ルイが弱気になって悩ましげに眉を寄せた。

 ただ渡すだけじゃん、なんでそこで細かい設定まで必要になるんだよと、コンプレックスを刺激されてティーゼは苛立ちを覚えた。

「ルイさん、私の事はその辺に生えている木で出来た人形だとでも思って練習して下さい。いいですか、『渡す』だけの練習なので、そんな細かな設定を設ける必要はないのですッ」

 ティーゼとしては、平均女性に身長が届いていないのは、恐らく成長期が遅いかもしれないので仕方がないと受け入れているのだ。女性として体系に恵まれなかった事についても、同じ理由だと信じているので、これ以上突っ込まないで欲しかった。

 物言いたげなルチアーノの視線には気付いていたが、ティーゼは無視した。

 これ以上コンプレックスを抉られてなるものかと、ルイを説得すべく真面目な顔で言い切った。しかし、どこかの嫌味宰相と違って、女性への気遣いが出来て優しさに溢れるルイは、ティーゼの邪念に気付きもせず困ったように笑った。