英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 通りに人の姿はまばらだった。立ち寄る列車は一日に一本になってしまっているため、町の外からの来客がないせいか、がらんとして見える。

 現在の時刻は、まだ町の店が開店し始めたばかりの早朝だった。

 先程到着してからずっと、ルイは先程から公園の入り口に張り付き、そわそわと落ち着きなく通りの方を覗き込んでいた。時折り耳を澄ませる仕草をし、口の中で何事かを呟きながら思案している。

「うん、マーガリー嬢はまだまだの距離だね。いつ聞いても、規則的な足音と息使いだなぁ」
「あの、ルイさん? それはちょっとやばいんじゃ――」
「陛下、さすがの洞察力です」

 ティーゼのぼやきを、ルチアーノが自然な台詞で遮った。

              ※※※

 マーガリー嬢の到着までの時間が判明したところで、公園の中で手紙を渡す練習が始まった。

 ティーゼは、たかが練習なのだと楽観視していたのだが、第一回目の練習開始をルチアーノが告げ、お互いが向き合ったところで、ルイが唐突に、ティーゼの背丈がマーガリー嬢に届かない事を口にした。