彼は傷を負ったティーゼを見て、真っ青な顔で「君、女の子だったの」と呟いた。ティーゼは、痛みに朦朧としつつも「気にするな」と言ったのだが、彼は「ごめん」と消え入るような声で、ずっと謝り続けていた。
 
 貴族は、どうやら男女の礼儀というか、そういった意識に小難しい考え方を持っているらしい。それからというもの、彼は責任を感じて、貴族学校で忙しくなっても必ず時間を見付けては、用もなく会いに来た。

 昔は感情豊かな子供だったのに、彼は、急に大人びた笑顔を浮かべるようになった。

 両親がなくなった時には、思わず泣いてしまったが、ティーゼは守られたくなくて強くなる努力をした。ここ数年でようやく、幼馴染の友人として接してもらえるようになっていた。彼が、ギルドの仕事について心配事を言わなくなったのも良い兆候である。
 
 風の噂によると、彼は美しい姫と婚約する可能性があるらしい。

 街の男達が、茶化しつつも騒いでいた。幼馴染相手だとしても、そんな状況で、異性一人が暮らす平民の家を訪ねるのは良くないと、助言されてティーゼも「その通りだよね」と改めてそう思った。

「国一番で最強の男なんだから、いつまでも昔の事を気にかけるんじゃないっての」

 ポスターに書かれている幼馴染の似顔絵を見て、ティーゼは少しの寂しさを滲ませて笑った。


 人間でありながら莫大な魔力を持ち、剣術、体術ともに負け知らずの英雄は、ポスターの中で、美貌に拍車掛かった姿で微笑んでいた。