ルチアーノは淡々と続けた。それさえ分かれば、何も身構えることがない特徴で、そういう能力なのだと理解できるはずですよと、珍しくも嫌味を含めずに説いた。

 人間側でも有名な話しらしいので、ティーゼは、もし思いつかなかったら誰かに聞いてみようと問題を放り投げる事にした。ルチアーノの説明は小難しすぎて苛々するので、タイミングがあればルイに尋ねてみてもいいかもしれない。

 考えが一段落ついたところで、ティーゼはテーブルへ視線を戻した。

 先程まであったはずの空皿と濡れ布巾が既に下げられており、暖かい湯気の立つ紅茶が置かれて、テーブルもキレイに拭かれている事に気付いた。


「…………一体いつの間に」


 今度ばかりは、姿を見ていない魔王の別荘の優秀すぎる使用人の仕事ぶりに、ティーゼは言葉を失ってしまった。

            ◆

 マーガリー嬢の走り込みコースは、人の邪魔にならないような落ち着いた通りがほとんどだった。

 空の散歩より戻ってきたルイが、他人に注目されず、それとなく彼女と二人きりになれるような待機――という名の待ち伏せ場所に選んだのは、寂れた駅から近い距離にある小さな公園の入り口だった。