翌朝、ティーゼは、現実とは思えない寝心地の良いベッドの上にいる、という違和感と共に目を覚ました。

 ベッドの手触りを確認し、寝呆けた頭で「何の冗談だろう。私のベッドが豪勢になってる……」と思ったが、昨日を思い出して現実である事を遅れて悟った。

 洗面所から戻ってくると、ベッドの脇には冷たい紅茶が用意されており、昨日出した服もきちんと洗濯されて掛けられていた。本当に、この屋敷の使用人はいつ出入りしているのだろうか、と半分寝呆けた頭で考える。

 ティーゼは着替えようとして、ふと、等身大の鏡が用意されている事に気付いた。

 鏡の前に立ち、不似合いな女性物の夜着姿の自分を目に止めた。首の付け根から、乏しい胸の谷間にかけて薄い裂傷痕が白い肌に浮かんでいるのが見えて、化粧で半ば隠れるほどまで薄くなった傷跡を、自身の指先でなぞった。


 あの奇襲は、誰も予測出来なかったものであり、いくら剣を嗜んでいたからといって、小さなティーゼ達には、どうしようもない事だった。