数時間前とは違い、その手にはまるで優しさがなかった。掴まれた肩が、ぎりぎりと痛むほどの強い怨念を感じて、ティーゼは、捕獲される小動物の心境で硬直した。

「うわぁ、デジャブ……」
「いくらなんでも、男同士で手紙を渡す練習はしないでしょう? 陛下の相手を務められるのですよ、光栄に思いなさい」

 ティーゼは、ぎぎぎ、と首だけをぎこちなく動かして、ルチアーノを振り返った。

「か、勘弁して下さい。他に使用人さんとかいるんでしょう? 私の事は通りすがり――じゃなかったか。えぇと、ギルドの依頼を済ませただけの人って事でスルーして下さいよッ」
「現在この館に女型の使用人はおりませんし、陛下があなたの世話になったのは事実ですので、こちらで夕食と寝室を無償で提供させて頂く考えでもあります。ちなみに、部屋にはコンパクトながら手作りの温泉もありますので、ご希望があれば――」
「手紙の件、協力させて頂きます」