英雄である幼馴染の名前は、クリストファーといった。

 彼は、平民であるティーゼの友人達にも、愛称の『クリス』を呼ばせるほど心の広い男だ。


 他の少年達は大人になるに従って、早々にクリストファーと呼ぶようになった。ティーゼも、愛称呼びが親しい間柄だけだと教えられてからは、『クリス』とは呼ばないよう気を付けている。

「クリストファーは、昔、遊んでいた私達の中に飛び入り参加して来た男の子だったんです。女性に対する礼儀意識が強すぎるせいで、今もよく家に来ていると言いますか……」
「貴族でなくとも、傷跡一つで嫁のもらい手がなくなる事も少なからずありますから」
「庶民は半々だと思いますけどね。そんなには大きくなかったんですけど、結構ざっくり切れちゃいましたから、それでびっくりしていた感じではありました」

 自然と声を掛けられたティーゼは、流されるまま答えた直後、ふと我に返った。


 こいつ、今なんて言った?


 ぎこちなくルチアーノを見れば、彼は涼しい顔で紅茶カップを持ち上げていた。そばで話しを聞いていたルイが、少し驚いたようにこちらを見つめている。