「なるほど。陛下に対して免疫があるのは、英雄を近くで見ていたせいですか」


 しばらく思案していたルチアーノが、相変わらず私情の読めない冷ややかな目をティーゼへと向けた。

「そういえば、あなたのファミリーネームは『エルマ』ですか?」
「そうだけど。え、何それ気持ち悪――」
「甚だしい勘違いです。リーバス侯爵家の英雄クリストファーには、平民の幼馴染があると聞いていたものですから」
「噂になっているんですか!?」

 ティーゼが慌てて問い掛けると、ルチアーノは僅かに眉を寄せた。

「何か都合の悪い事実でも?」
「いや、その、悪い噂じゃなければいいなぁと思っただけでして……。ん? もしかしてあれか。交友関係が広いから、それで私の名前もチラリと上がっていたとか、そういう感じですか?」
「そのようなものです」
「なぁんだ」

 ティーゼは、思わず胸を撫で下ろした。年頃の貴族男性にとって、不利になるような噂でも立っていたら早急に手を考えなければならないところだ。