英雄となった彼は、そう考えると良い見本だった。貴族として女性を疎かにしない対応は完璧であり、町で聞いた噂によると、やはり優しいところが人気を集めているらしい。

 しかし、ティーゼとしては理解し難い事がある。

 彼と実際に関わった事がなく、遠目で見ただけの女性からの人気も圧倒的だった。例えば、マーガリー嬢のように疑って掛かったり、彼に対して警戒するような女性を、ティーゼは一人として見た事がなかった。

「彼のすごいところは、全ての女性が一目で惚れていく感じ、ですかね。噂なので確証はありませんが、結婚したいという女性のみならず、愛人の一人になりたいと望む女性も後を絶たないとか」
「すごい人だねぇ」
「陛下、感心している場合ではありませんよ。あなたも同じ立場にいる事をお忘れなく」

 素早く指摘したルチアーノが、クッキーを食べるティーゼを見やって「ふむ」と顎に手をやった。

「全ての女性に、という評価に値する人間といえば、噂の『英雄』が思い浮かびますが」
「まさに彼です。その……幼馴染の友人なんですよ」

 ティーゼは一瞬、幼馴染と断言して良いのか躊躇した。