そんな人は滅多にいないでしょうけれど、とマーガリー嬢が言葉を締めた。

 誰よりも優しい、とティーゼは口の中で反芻した。

 一瞬、英雄となった幼馴染の顔が脳裏を過ぎったが、同情もあるんだろうなぁと思うと、少し寂しくなった。今は仲が良い幼馴染の関係には戻れているけれど、いつも心配してくれているのが申し訳ない。

 事件の後しばらく、彼は、慣れないような作り笑いを浮かべていた。怪我の後遺症の痛みがなくなって走り回れるぐらいにまでなった時に、「もう大丈夫だよ」と、その手を離してしまえれば良かったとは反省している。

 ここ数年、彼があまりにも自然に優しく微笑むから、今更あの頃の事を掘り返してしまうのも悪く思えて、「まだ怪我の事を気にしているのなら、大丈夫だから、心配しないで」と、どうしても口に出来ないでいるのだ。


「……気持ちって難しいなぁ。思っている事が全部そのまま、相手に伝わってしまえばいいのに」


 思案していたティーゼが、つい腕を組んでそう呟くと、マーガリー嬢がおかしそうに笑った。